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No. 55


中部支部の活動と更なる発展に向けて

支部長 藤原 康弘 (名城大学)

支部会員の皆さまにおかれましては、日頃より中部支部の活動にご理解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

このたび、大学英語教育学会中部支部の支部長を拝命いたしました藤原康弘(名城大学)です。就任にあたっての挨拶および所信につきましては、支部ホームページに掲載しておりますので、詳細につきましてはそちらをご覧いただけましたら幸いです。

2025年度の事業といたしましては、6月に支部大会、11月に定例研究会を開催するとともに、1月には本ニューズレターを発行するなど、さまざまな活動を行ってまいりました。各行事の具体的な内容や報告につきましては、本号に掲載されている各記事をご参照ください。いずれの行事も多くの会員の皆さまにご参加いただき、成功裡に実施することができました。この場をお借りして、企画・運営にご尽力くださった役員・実行委員、ならびにご参加いただいた会員の皆さまに改めて感謝申し上げます。

支部運営に関する新たな取り組みとして、次年度より中部支部紀要の電子化を予定しております。電子化により、会員の皆さまの利便性向上を図るとともに、本支部紀要の内容や魅力を、これまで以上に広く発信していくことを目指しております。2025年度より掲載料の無償化も実現しておりますので、今後とも多くのご投稿をお待ちしております。

また、研究発表賞などを含む若手研究者支援事業につきましても、現在検討を進めているところです。詳細が確定次第、メーリングリストやSNS等を通じてご案内いたしますので、引き続きご関心をお寄せいただければ幸いです。

今後の予定として、2026年3月7日(土)には、愛知大学名古屋キャンパスにおいて定例研究会を開催する予定です。基調講演では、岐阜大学高等研究院航空宇宙生産技術開発センター准教授の尾関智恵先生に、「クロスメディアを活用した学習研究の紹介」と題してご講演いただきます。JACET SIGの授業学研究会(中部)によるワークショップも企画しております。

さらに、2026年6月27日(土)には、第40回という節目を迎える中部支部大会を開催いたします。会場は前回と同じく、名城大学ナゴヤドーム前キャンパスを予定しております。大会テーマは、「越境する言語使用と異文化間コミュニケーション― 大学英語教育を超えて」(仮)とし、基調講演には、「媒介言語論」で広く知られる木村護郎クリストフ先生(上智大学外国語学部 教授)をお迎えする予定です。

前回の支部大会では、「Instructed Second Language Acquisition:教室で何がどこまでできるか」をテーマに掲げ、中学校・高等学校・大学の教室における第二言語習得を取り上げました。詳細につきましては、本号に掲載の報告をご一読ください。次回の大会では、大学卒業後の社会や企業における実際のコミュニケーションの場にも視野を広げ、大学英語教育のあり方について、あらためて考える機会としたいと考えております。

大会の詳細や発表募集等につきましては、今後あらためて支部ホームページやメーリングリスト等を通じてご案内いたします。多くの会員の皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

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故田中春美先生を偲んで

故田中春美先生

2025年5月、JACETおよび中部支部の重鎮であり、筆者らの恩師でもある田中春美先生がご逝去されました(享年95)。ここに、先生のこれまでのご功績とお人柄を振り返り、惜別の想いを記させていただきます。

田中先生は東京教育大学の学部・大学院を経て、1971年に米国ブラウン大学よりPh.D.(言語学博士)を取得されました。1960年以降、立教大学専任講師、東京教育大学助教授を経て、ハワイ大学内の米国East-West Centerの客員研究員として活動され、1976年からは南山大学において長く英語学・言語学の指導に当たられました。筆者らはいずれも同大大学院にて先生のご指導を受け、とりわけ鈴木は留学先のワシントン大学(ワシントン州シアトル)での博士学位審査の審査員の一人としても大変お世話になりました。1999年に南山大学名誉教授となられてからは、2004年まで名古屋外国語大学大学院教授を務められました。

研究においては、理論言語学や英語教授法の紹介などに尽力され、『言語学入門』『言語学のすすめ』『ライルズ 変形文法入門』『ライオンズ 現代の言語学(上・下)』『フィルモア 格文法の原理』など、多くの著書・翻訳書を執筆されました。Larry E. Smithらとの交流を通じ、国際英語論の斬新な理論を日本に紹介・普及させた草分け的存在であったことも、特筆すべき功績です。また、国内外の著名研究者との交流も広く、世界中に友人知人をもっておられたのは、穏やかで紳士的な先生のお人柄によるものだったのだろうと思われます。1971年にはルーマニア社会主義共和国より文化功労章(三等)、2010年の叙勲では瑞宝中綬章を受けられています。

田中先生は理事・評議員としてJACET草創期を支えたお一人でもありました。とりわけ1983年の中部支部設立にあたっては、丹下省吾、池稔、小野経夫の諸先生とともに、南山大学の直井豊先生、名古屋大学の佐藤一夫先生の協力を得て、支部の基盤を築かれました。当時の役員会は、非常に凛とした厳かな雰囲気であったと聞いています。1990年には第二代支部長を務められ、その後も支部役員や本部顧問として、2022年まで長くご尽力くださいました。

いつも若々しく、厳しさと優雅さを併せ持つ、穏やかで上品な教養人でいらしたというのが、教え子から見た田中先生の印象です。甘党であった先生を(今ではなかなか考えられませんが)授業の際に院生達が近くのケーキ店に突然お誘いしても笑顔で付き合ってくださる懐の深さを持っておられた一方で、休講を1回すると補講を2回されるという、学問・教育に対する厳しさもお持ちの先生でした。学問だけでなく、人生の歩みについても範を示してくださった田中先生に出会えたことに重ねて深く感謝したいと思います。

ピアノの名手でもあられた先生は、若い頃、言語学者になるかピアニストになるか真剣に悩まれたと伺っています。支部主催の「田中春美先生追悼の会」(11月30日)でも先生のピアノ演奏が一部紹介されましたが、いまごろは天上にて、お好きだったショパンやブラームスの音楽を心置きなく奏でておられるのではないかと思います。

田中先生が遺された学問的遺産と、後進への温かい眼差しを想い、ここに謹んで先生の安らかな眠りをお祈り申し上げます。

小宮 富子(岡崎女子大学)
鈴木 達也(南山大学)

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書籍『WORLD TRAVELERS』の表紙と概要、BBCの『ザ・トラベル・ショー』に基づく文化と社会に関する学習資料。

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2025年度 中部支部大会報告

大会テーマ「Instructed Second Language Acquisition:教室で何がどこまでできるか」
2025年6月7日会場:名城大学

基調講演報告:「ISLA研究の知見を活かした英語授業デザイン:3つの視点から」
 鈴木祐一先生(早稲田大学)

講義中の男性がスライドを前に立っている教室の風景
鈴木祐一先生

2025年6月7日、JACET(大学英語教育学会)中部支部大会において、早稲田大学国際学術院の鈴木祐一先生をお招きし、「ISLA研究の知見を活かした英語授業デザイン:3つの視点から」というテーマでご講演をいただいた。第二言語習得(SLA: Second Language Acquisition)に関する理論的知見と、豊富な授業実践経験に基づくお話は、理論と現場をつなぐ実践的かつ説得力のある内容であり、多くの示唆と気づきを得る大変意義深い時間となった。ご講演では、「1. 英語指導における優先順位」、「2. 教室における教師の役割」、「3. ISLA研究と英語指導法」の3つの観点から、英語教育の在り方についてご提示いただいた。

まず、「1. 英語指導における優先順位」については、英語コミュニケーション能力の育成に焦点を当て、学習者が保持している言語知識を、どのように実用的なスキルへと転化させるかという点が論じられた。ここで紹介されたのが、「スキル習得理論(Skill Acquisition Theory)」である。この理論では、まず学習者が得る知識は宣言的知識(文法ルールや語彙の意味)として保持され、それが繰り返しの使用を通じて手続き的知識(実際の使用に適した知識)へと転換され、最終的には素早く・正確に言語が運用できる「自動化(automatization)」の段階へと発展していくとされる。鈴木先生はこの理論をふまえ、英語スキルの自動化とは、単なるドリルやワークブックによる形式的な練習によって実現されるのではなく、実際の使用場面で英語を使う経験を通じてこそ達成されるべきであると強調された。そのためには、学生が授業内外で英語を「使う」時間を最大限に確保することが、教育実践の中核となると述べられた。

さらに、言語スキルを効果的に自動化させるためには、「インプット」「アウトプット」「練習」という3要素を授業活動に意図的に組み込む必要があるとし、その実践モデルとしてPaul Nationの「Four Strands(四つのストランド)」が紹介された。このモデルは、効果的な語学授業の構成要素を4つ(1. 意味重視のインプット(例:多読、多聴)2. 言語形式重視の学習(例:単語カード、文法練習、シャドーイング)3. 意味重視のアウトプット(例:間違い探しタスク、ペア・グループでのコミュニケーション)4. 流暢さ重視の活動(例:速読、絵描写タスク、時間制限付きのリテリング)に分類され、これらをバランスよく取り入れることで、学習者の言語運用能力が育成されると示された。

次は「教室における教師の役割」に関するお話である。近年注目されているポジティブ心理学や複雑系理論の知見を踏まえながら、学習者の「感情」や「やる気」といった心理状態は、生徒個人の内面にとどまらず、周囲の環境との相互作用の中で絶えず変化する動的なプロセスであると述べられた。こうした観点から、教室内で生徒がポジティブな心理状態を保ちながら学習に向かえるような「環境」を整えることが、教師の重要な役割のひとつであると強調された。特に、外国語学習においては「学習不安」がパフォーマンスに与える影響が大きく、多くの研究が英語学習へのネガティブな影響(負の相関関係)を示している。そのため、教師には、単に知識や技能を教えるだけでなく、学習者の感情面に配慮し、教室全体の雰囲気を積極的にポジティブに整える働きかけが求められる。

このような考え方を具体的に体現する授業実践の一例として紹介されたのが、限られた時間内にスパゲッティとマシュマロを使ってできるだけ高いタワーを作るという「マシュマロ・チャレンジ」というグループ活動である。この活動は、言語習得が主目的ではないものの、チームワークを育み、信頼関係が生まれ、教室内に前向きな空気が醸成される効果がある。鈴木先生は、「こうした一見“寄り道”のように見える活動こそが、学習者にとっての成功体験やポジティブな感情を育む鍵となる」と述べ、学びに向かう感情的な土台を整えることの重要性を強調された。

最後に取り上げられたのは、「SLA研究に基づく指導法」である。代表的な二つの教授アプローチであるTBLT(Task-Based Language Teaching)とPPP(Presentation, Practice, Production)が取り上げられ、その違いについて、「文法指導を“いつ”行うかにある」と明快に説明された。

PPPは、授業の冒頭で文法や語彙の説明(Presentation)を行い、それに続いて練習(Practice)、そして応用的な産出(Production)へと進む構造である一方、TBLTは、まず意味のあるコミュニケーションタスクに取り組み、その過程や結果を受けて必要な文法形式を導入するという、学習者の気づきと意味理解を重視した構成になっている。この違いの背後には、「文法と意味に同時に注意を向けることは、学習者にとって負荷が大きい」という認知的視点がある。学習者が「自分の言いたいことを伝えたい」というコミュニケーションの本質的な目的よりも、「正しく言わなければならない」という形式面に過度な注意が向いてしまうと、「間違えたくない」といった不安や抵抗感が生まれ、言語使用へのモチベーションを損なうおそれがある。TBLTは、こうした負の感情を避けるため、あえて文法指導をタスクの後に配置することで、「正確さ」に過度にこだわる気持ちを和らげ、意味重視の言語活動を促進しようとするアプローチである。この点において、TBLTは学習者の心理的負担を軽減し、自然な言語使用を支える実践的な枠組みであると評価された。

しかしながら、最も重要なのは、各アプローチの優劣を論じることではなく、それぞれの理論の原理と効果を理解したうえで、教育現場の実情に応じて最適な方法を選び取ることだと、鈴木先生は強調された。学習者の年齢やレベル、教材の性質、授業時間、クラスサイズといった多様な要因を考慮しながら、それぞれの指導法の長所を活かす柔軟な実践が求められるのである。そのためには、教師自身が教育の原理に立脚し、日々の授業実践を振り返り、試行錯誤を重ねながら改善を続けていく必要がある。その過程において、SLA研究の知見と自らの実践とを照らし合わせることで、授業の質を理論的にも実践的にも高めていくことが可能になると、講演は締めくくられた。

本講演を通じて、ISLAという専門的な研究分野が、決して研究者だけのものではなく、教育実践者の日常の授業と密接に結びついた“生きた知識”であることが改めて認識された。SLA研究に基づく理論を教師自身が理解し、それを自らの授業に応用するための具体的な方法が数多く提示された今回の講演は、英語教育をより豊かなものへと導く、大きなヒントと力を与えてくれた。

ご講義を拝聴し、これまで抽象的で捉えにくかった理論が、具体的な授業実践と有機的につながる様子に、感動すら覚えた。そして何より、鈴木先生のSLA研究の将来に対する真摯なまなざしと、学生一人ひとりの学びを大切にする教育者としての情熱が、言葉の端々に強く伝わってきた。その姿勢に触れたことで、「私自身も研究者として、より良い教育のために学びを深めたい」「教育者として、学生にとって本質的な学びを提供できる授業を実現していきたい」という思いが、いっそう強まった。そして「明日からの授業を変えていきたい」と、前向きな決意と勇気をいただいた。鈴木先生が「世界で最も影響力のある研究者トップ2%(言語・言語学分野)」に選出されているという事実は、まさに、深く心を動かされた自分自身の実感によっても裏付けられた。

梶浦 眞由美(名古屋市立大学)

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2026年度の新刊案内、様々な英語教材のタイトルがリストされています。

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シンポジウム報告

講演中の講師とオンライン参加しているゲスト、会議室の様子
シンポジウム登壇者の方々

「第二言語習得研究の理論と実践-中・高等学校の教室からー」 鈴木渉先生 (宮城教育大学)

第二言語習得(SLA)の理論を教育現場に応用することは大切である。SLAは第二言語を学ぶ過程を解明する学問であるが、教室での教育的介入を伴うInstructed SLA(ISLA)は、教師と学習者が共にいる環境での実践的研究を指す。ISLAの目的は、研究者と教師の連携を通じて理論を教育に反映させることである。具体的には、①研究者が教師とコミュニケーションをとること、②研究者と教師による共同研究、③教師自身の研究活動が挙げられる。

①では、教員養成や研修、教師向け書籍・雑誌の出版、SNSでの情報発信などを通じて研究知見を現場に還元することが重要とされる。

②の実践例として、中学校における英作文フィードバック研究が紹介された。この研究では、学習者の認知・情意の変化と書き直し行動の関連を分析するため、初稿作成後にエラーを直接訂正し、書き直しを行わせた。また、ブレインストーミングの有無や、すべてのエラーを訂正するか一部に絞るかの方法、振り返りや理解時間の確保など、さまざまな介入の効果が検討された。その結果、直接訂正を見ずに書き直しても約7割の修正が定着することが示され、学習者のポジティブな感情が学習成果に影響することも確認された。

③の実践例として、教師自身の研究として、現職教員の修士課程や教職大学院での研究、民間助成金を活用した実践研究が例として挙げられた。具体例として、ランゲージングについて研究は、教室現場でSLAの知見を応用し、縦断的に研究を重ねていくことができたことが報告された。

総じて、ISLAは理論と実践の橋渡しを行い、教師と研究者の協働、教師自身の研究により、学習者の認知・情意への配慮を通じて、第二言語習得の理解と教育的効果を高める重要なアプローチであることが確認された。

「対話システムを用いた英語スピーキング練習プログラム」 鈴木駿吾先生 (名古屋大学)

近年、個別最適化された学びの実現に向け、AIを活用する試みが注目されており、人と共に進化するAIによる英語学習プロジェクトが進められている。具体例として、英会話AI「InteLLA」は、音声認識、自然言語理解、対話制御、自然言語生成、合成音声を組み合わせた対話型スピーキングシステムであり、大規模言語モデル(GPT系)を応用することで、完全自動のスピーキングテストとCEFRに基づく自動採点を実現している。専門家との一致率は0.929と高精度であり、個別最適な学びに活用できるかが検証されている。

本プログラムでは、診断評価のサイクルとして「診断→フィードバック→リメディアル学習」を導入している。しかし、AI自動採点はブラックボックス性が高く解釈性が低いため、説明可能なAIの活用が求められる。スピーキングにおいては、協力ゲーム理論に基づき、発話内の単語の組み合わせを判定し、良い単語と悪い単語を識別してフィードバックを行う。

また、フィードバックの要件として、文脈化(NoticingやRecast)と行動可能性(タスクの繰り返し)が重視され、悪い発話をパラフレーズすることでCEFRレベルを向上させる方法が検証されている。Suzuki(2025)の研究では、言い換えフィードバックの効果を、実験群(言い換えあり)と統制群(判定のみ)で比較した。事前・事後・遅延スピーキングテストを通じ、学習者はAI相手に複数トピックで会話し、スコアレポートを確認しながらフィードバックを学習に活かした。実験結果では、学習者の学習傾向や目標に応じて効果が異なることも示された。

講演のまとめとして、AIを用いた診断評価は、学習者一人ひとりの学習傾向や目標を踏まえた個別最適な学びの実現に向けた重要なアプローチであることが示された。AIと人間の協働により、スピーキング学習の効果的な支援が可能になることが強調された。

<コメント> シンポのテーマは「教室で何がどこまでできるか?」というテーマであった。

鈴木渉先生からは、第二言語習得理論を教育現場に応用するための研究活動の実例の紹介があった。結論として、ISLAは理論と実践をつなげ、教室での教育的効果を高める重要な方法であることが提起された。

鈴木駿吾先生からは、英会話AIによる実証研究の結果を通して、教室で目指すことが提案された。具体的には、個別最適な学びを実現するためには、学習者一人ひとりの学習傾向や目的を踏まえたフィードバックが必要であることが指摘された。

教室でできることは、結局、現場での学習者の学びに立ち会うことよって、教育から理論に提言を行い、理論からの示唆によって教育を進める、その往還に尽きるのではないかということが確認された。とりわけ、現場では、第一線で学習者の学びに触れること、そこで何が起こっているのかを肌で実感することが大切ではないかと思われる。

藤田 賢(愛知学院大学)

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2025年度  第1回定例研究会報告

基調講演「英語教育とEnglish-medium instruction (EMI) ダイバーシティとインクルージョンの視点から

柴田美紀先生 (広島大学)
2025年11月30日会場:愛知大学

プレゼンテーションを行っている女性が、マイクを持って話している。彼女は花柄のショールを着ており、デスクにはノートパソコンとその他の機器が置かれている。
柴田美紀先生

2025年11月30日に実施されたJACET中部支部 第1回定例研究会では、柴田美紀先生が「英語教育とEnglish-medium instruction (EMI)―ダイバーシティとインクルージョンの視点から―」という題目で講演され、日本の大学における国際化政策の展開を背景に、EMI推進に伴って生じる学習環境上・制度上の課題が、複数の研究結果や事例を踏まえて多角的に論じられた。とりわけ、EMIが単に「英語で学ぶ授業形態」を指すだけでなく、教室内の相互作用や参加のあり方、学生の自己認識、そして大学制度の設計思想を映し出す場でもあることが強調された。

まず、EMI授業の学習環境の特性として、教員中心で受動的な理解を主としやすい従来型授業と比べ、EMIではアクティブラーニング型の活動が多く、学生には発言やインタラクションを含む積極的な参加が求められやすい点が示された。その結果、英語で発言しやすい留学生や海外経験者が授業内で中心的な役割を担い、一般入試で入学した日本人学生が相対的に沈黙しやすくなるなど、英語能力や経験差に基づく階層構造(モラルオーダー)が形成される可能性が論じられた。序列は「留学生→海外経験のある日本人→海外経験のない日本人」のような形で観測されることがあるとされ、参加の不均衡が学習機会そのものの偏りにつながり得る点が問題化された。

次に、グループディスカッションでの言語使用の実態について、使用言語は固定的ではなく、グループの構成に左右されやすいことが示された。日本人学生が多数派のグループでは日本語が用いられ、日本語が十分でない留学生が孤立しやすい一方、多言語話者の留学生が公平性の観点から英語使用を意識的に選択したり、通訳的役割を担ったりする事例も取り上げられた。ここから、EMIは「英語のみの場」ではなく、実際には複数言語が交渉される場として理解する必要があることが示唆された。

また、興味深かったのは、日本人学生が抱えやすい心理的課題として「自己欠如イデオロギー」が論点化された点である。文法的な誤りや失敗を恐れて発言をためらう傾向は、正解を重視する学習文化や評価への不安と結びつき、「自分はまだ十分ではない」という感覚が内在化されることで強化されると整理された。加えて、小中高での受動的学習経験と、正解が一つではないアクティブラーニングとのギャップにより、「確信できることしか言えない」という意識が参加の障壁になり得る点が指摘された。これに関しては、私自身も学生の授業態度を見ていて日頃感じていることであり、納得した。

さらに、教室内外での力関係の反転が構造的問題として示された点も印象的であった。EMI授業内では英語での発言が難しい日本人学生が言語的マイノリティになり得る一方、授業外では日本語・日本文化を前提に設計されているため、日本人学生が言語的マジョリティとして優位に立ちやすい。言語的・文化的資本の偏りが、国際化を掲げる制度の内部で温存され、結果として留学生と日本人学生の間に見えにくい壁を作り得ることが論じられた。

大学の国際化政策が抱える制度的矛盾としては、EMI化や留学生受け入れ拡大を推進しながらも、日本語中心主義が制度や社会に強く残る「二重言語政策」の実態が示された。英語で学ぶ場を拡張する一方で、生活や就職などの局面では高い日本語能力が求められるといった構造が、留学生と日本人学生の「棲み分け」や「他者化」につながる可能性が示され、日本語が堪能であっても日本人学生のグループに入りづらい留学生の疎外感は、その具体例として位置づけられた。

最後に、真のダイバーシティ&インクルージョンに向けた教育的アプローチとして、EMIを「English Only」ではなく多言語多文化環境として再定義し、相手を理解しようとする双方向の「対話」を中心に据える必要性が提起された。教室は「わからない」と言える安全な場であるべきであり、学生のやり取りの能力(インタラクショナル・コンピテンス)として、会話の破綻を修復するブレイクダウン・リペアや、順番を管理するターン・マネジメント等を育成する視点が示された。授業運営の工夫としては、学生の様子を観察して発言を促すファシリテーションやシンクタイムの設定、学生任せにしない意図的なグループ編成、ペアワークやAI英会話等を活用した段階的練習によって心理的負荷を軽減することなどが挙げられた。こうした具体的な「学生が話しやすくなる環境づくり」の方策が示されたことで、私自身も教員として、学生の心理的負担を下げる仕組みを授業に取り入れていきたいと強く感じた。

プレゼンテーションを行う男性とその横にいる女性。女性はコンピュータの前に座り、男性はマイクを持って話している。
(左:藤原康弘支部長  右:柴田美紀先生)

中山 麻美(岐阜医療科学大学)

研究会報告 【日英インタラクション研究会】

研究会ワークショップ 「会話の『やりとり』にフォーカスした指導の理論と実践」
登壇者:重光由加(東京工芸大学)、岩田祐子(明治大学)大塚容子(岐阜聖徳学園大学)大谷麻美(京都女子大学)2025年11月30日会場:愛知大学

講演を行う女性
研究会報告の様子

本ワークショップは、英語でのやりとり(インタラクション)に焦点を当て、英語会話を活性化させるための指導案と、やりとりの指導方法について検討することを目的として実施した。

ある程度の英語力を持っていても、文化や言語が異なる人との英語会話に参加すると、「会話にうまく参加できない」などという感想を持つ日本人が多い。これは、日本語と英語ではやりとりの仕方に違いがあるにもかかわらず、そのことについて、これまで殆ど教えられていないことも原因のひとつと考えられる。

そこで、ワークショップでは、日英インタラクション研究会で開発・試行した、やりとりに焦点を当てた明示的、段階的な指導方法を参加者の方と共有した。「やりとりの方法と、その背後にある英語の文化的価値観を理解するためのワークシートを用いた指導」を中心にワークショップを行った。5種類の指導項目(①自分から詳細な情報を提供する、②語彙的あいづちを打ち、短いコメントを述べる、③相手から情報を引き出すための質問をする、④質問に対して詳細な返答をする、⑤ 関連した短い語り、第二の物語を語る)のワークシートを配布し、参加者の方にも学生になったつもりで、記入したり、回答してもらったり、近くの席の方と会話練習をしていただいたりした。

また、研究会がこれまで収集したデータから、日本人の英語会話の問題点の例や、指導後の改善例などを紹介した。そして、英語会話が上手くいかない一因は、日本人が日本語のやりとりの方法のまま英語を話しているためであることも示した。そして英語のやりとりの方法の指導が極めて重要である事を指摘した。 

重光 由加(東京工芸大学)

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掲示板:2026年度『JACET中部紀要』紀要原稿募集

『JACET中部支部紀要』第24号への掲載論文の投稿(学術論文、研究ノート、実践報告、書評)を募集します。
奮ってご応募ください。

締切:          2026年9月10日
刊行予定:   2026年12月
掲載料:       無料(2025年度より無料となりました)
問合せ:       JACET中部支部事務局(紀要担当)
投稿方法等の詳細については中部支部ホームページでご確認ください。           
JACET中部支部 紀要HP https://jacet-chubu.org/journal/
J-stage(過去掲載された論文はこちら) https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jacetchubu/-char/ja

中部支部紀要編集委員会

事務局より


2025年度第2回定例研究会のお知らせ

JACET中部第2回定例研究会のポスター。クロスメディアを活用した学習研究についての情報が含まれている。講演者は尾関智恵先生で、研究会は愛知大学名古屋キャンパスで開催される。

第2回定例研究会を下記の通り開催いたします。研究発表、基調講演、研究会ワークショップを予定しております。

日時:2026年3月7日(土)
場所:愛知大学 名古屋キャンパス
定例研究会HP:https://jacet-chubu.org/studygroup/

講演:尾関智恵氏(岐阜大学)
「クロスメディアを活用した学習研究の紹介」
研究会ワークショップ:授業学研究会

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2026年度支部大会のお知らせ

第40回中部支部大会を下記の通り開催いたします。研究発表、基調講演、シンポジウムを予定しております。 詳細は支部大会のホームページに掲載いたします。

日時:2026年6月27日(土)
会場:名城大学ナゴヤドーム前キャンパス
大会テーマ:
「越境する言語使用と異文化間コミュニケーション― 大学英語教育を超えて」(仮)
基調講演:木村護郎クリストフ 氏(上智大学外国語学部 教授)
☆ 日本「アジア英語」学会 (Japanese Association for Asian Englishes[JAFAE]) 第57回全国大会(JAFAE57)との共催により開催します。JAFAE57は6月28日(日)に同会場で開催されます。JACET会員は無料で参加可能です。

2026年度定例研究会のお知らせ

☆2026年 第1回定例研究会
日時:2026年 11月29日(日)
会場:名古屋市立大学

☆2026年度 第2回定例研究会
日時:2027年 3月6日(土)
会場:愛知大学

*詳細はJACET中部支部ホームページに掲載予定です。

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◆ 新入会員のご紹介

2025年6月から2025年12月までの中部支部所属新入会員は以下の方々です。
(敬称略、入会順)
Flood,Cillian B.
宮川 麻衣子
犬童 雄亮
川口 健太
小林 真実
三上 綾介
魏 ヘンニム

2026年度中部支部役員(敬称略)

顧問:
倉橋洋子 (東海学園大学)
小宮富子 (岡崎女子大学)
吉川寛  (中京大学)

理事:
佐藤雄大 (名古屋外国語大学)
鎌倉義士 (愛知大学)

支部長:藤原康弘(名城大学)
副支部長:梶浦真由美(名古屋市立大学)  

幹事:
事務局: 藤村敬次(愛知工業大学)
会計担当:中山麻美(岐阜医療科学大学)
事務局補佐:大瀧綾乃(静岡大学)
HP担当:柴田直哉(大阪教育大学)
紀要担当: 三上仁志  (中部大学)

支部研究企画委員(50音順)
石川有香(名古屋工業大学)、今井隆夫(南山大学)、内田政一(桜花学園大学)、江口朗子(立命館大学)、大石晴美(岐阜聖徳学園大学)、大瀧綾乃(静岡大学)、大森裕實(愛知県立大学)、岡戸浩子(名城大学)、梶浦眞由美(名古屋市立大学)、倉橋洋子(東海学園大)、小宮富子(岡崎女子大学)、児玉恵太(椙山学園大学)、佐藤雄大(名古屋外国語大学)、塩澤 正(中部大学)、柴田直哉(大阪教育大学)、下内 充(中部学院大学)杉浦正利(名古屋大学)、鈴木達也(南山大学)、関山健治(中部大学)、種村俊介(金城学院大学)、中山麻実(岐阜医療科学大学)、広瀬八重子(東海学院大学)、藤田 賢(愛知学院大学)、藤村敬次(愛知工業大学)、藤原康弘(名城大学)、三上仁志(中部大学)、三島恵理子(愛知淑徳大学)、溝口夏歩(名古屋外国語大学)、本守美織(藤田医科大学)、吉川寛(中京大学)

支部紀要編集委員会
委員長: 塩澤  正
委 員:石川有香、今井隆夫、内田政一、下内 充、杉浦正利、関山健治、溝口夏歩、

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転居・メールアドレス変更時につきまして

◆ ニューズレターは会員の皆様のフォーラムです。ご意見、ご要望等は事務局までメールでお送りください。投稿も歓迎いたします。なお、メール件名は【JACET中部】とお書き添えください。

JACET 中部支部事務局

〒422-8529
愛知県豊田市八草町八千草1247
愛知工業大学 藤村敬次研究室内
JACET 中部支部 お問い合わせ 

2026年1月26日発行

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希望のNo.をクリックしてダウンロードして下さい
(すべてPDFファイル)
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